ヴォーカル・アンサンブル カペラ 公式ウェブサイト

カペラ20 周年を感謝して

10 年間のオランダ滞在から日本に引き揚げてきて間もない頃、私がまずどうしてもやりたいと思ったこと、それが本格的なルネサンス音楽の声楽アンサンブルを立ち上げることでした。今でも残っている数名の初代メンバーには、まず楽譜の読み方から勉強してもらいました。その頃は音楽学の研究者以外ほとんど目にすることさえなかったルネサンス時代のオリジナルの楽譜を、そのまま実践的に使って歌うということに、地道に取り組んでくれました。さらに、小編成で緻密にグレゴリオ聖歌やポリフォニーを歌うためには、普段とはかなり違う声の使い方が要求されます。声楽家としてそれぞれに活躍していた初代メンバーにとっても新しいことの連続だったと思います。ルネサンス音楽にふさわしいアンサンブルとなるよう常に前向きに頑張ってきてくれたメンバーには、本当に頭が上がりません。

ジョスカン・デ・プレのミサ曲全集の CD リリースは現在進行中ですが、定期的に録音セッションを行うようになったことは、カペラの演奏が次の段階に進化するにあたって、とても貴重なことでした。同じ箇所を納得がいくまで何回も録音し直して、それをその都度全員で聴いて確認することで、アンサンブルに磨きがかかりました。あえて録音を取り仕切るディレクターを置かず、演奏者が自分たちで進めていくという、ある意味効率の悪いやり方が、かえって功を奏したのです。

効率が悪いということで言いますと、計量記譜によるコワイヤブックを囲んで歌うのは、各自がスコアを手にして、指揮者の指示に合わせて演奏する「合唱」形式よりはるかに手間がかかります。そもそも、ムジカ・フィクタという変化音や、歌詞の付け方といった、作品の基本的な部分さえ、演奏者が考えていかないといけないので、練習の途中にいろいろ試しながら曲そのものをその過程で仕上げていくのです。だから練習に必要な時間も多くなります。カペラの演奏曲目は演奏者にとってほとんどが新曲で、おそらくは本邦初演のものもかなり多いと思われます。よく知っている慣れた曲を演奏するのとはわけが違います。だからたくさん時間をかけて、練習の場で試行錯誤することによって、メンバー各自が作品の理解を根本から深めていくのです。

これを 20 年間、毎年平均 3 つから 4 つのプログラムで活動を続けてこられた、ということは本当にありがたいことです。これも定期公演に足を運んで応援してくださるお客様のお陰と思います。この場をお借りして心より感謝申し上げます。

そして近年はまだ20 代の若い声楽家たちがこの音楽を学び、カペラに加わるようになってきました。長い間、メンバー 8 人のうち一人欠けても演奏ができない、代わりの歌手はいない、という状態でしたが、今では日程などの都合によってメンバーが一部替わったり、あるいは昔はなかなかできなかった声部数の多い、編成の大きな作品も演奏できるようになりました。まだ、若い枝を接ぎ木したようなところもありますが、これをもってカペラはさらに次の段階に入ってきています。グレゴリオ聖歌とルネサンスのポリフォニーはかけがいのない人類の知的、霊的、精神的な遺産です。これをさらに成熟したアンサンブルでお聴かせすることができるよう、今後とも精進していきたいと考えています。

ヴォーカル・アンサンブル カペラ 音楽監督 花井哲郎

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